今度こそ、練愛

帰宅してからもずっと頭の中から宿題のことが離れない。ベッドの上で考えを巡らせながら、うとうとしているとスマホが鳴り出した。こんな時に母からだ。



「きんかんジャム、昭仁さん食べてくれたか聞いてる?」



第一声からドキッとさせられる。
それどころじゃなく混乱した頭の中に、ぽんっと危険生物を投入されたような気分。



「あ、うん、渡したけど食べたかどうかはまだ聞いてない、私は毎朝パンと一緒に有難く頂いてます」

「有希はいいのよ、昭仁さんがどうかなあ……と思ったの、それで? いつ帰ってくるの?」

「だから……、まだ無理だよ、仕事が忙しいから、落ち着いたら連絡する」



つい苛立って口調がキツくなってしまった。
母が口を閉ざして返事をためらったのがすぐにわかったから私も何も言えなくなる。



「ごめんね、仕事が落ち着いたら考えてね。有希も昭仁さんも風邪ひかないように気をつけて」



気まずい空気のまま、母は電話を切った。
川畑さんが食べてくれたのかわからないし、受け取ってくれたのかさえも知らない。



もしも山中さんが川畑さんだとしたら、尋ねたら答えてくれるかな。
それともまた、全否定されてしまうのかな。
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