今度こそ、練愛
「おはようございます、高杉さん」
「おはよう、どうしたの? 大隈さん、ずいぶん顔色が良くないよ?」
高杉さんが心配そうに顔を覗き込む。
だって昨夜はよく眠れなかった。自分が意外と小心者だったことにも驚かされたけど、それ以上に川畑さんに驚かされてしまったおかげ。
せっかく昨日は仲岡さんと花を仕上げ、喜びいっぱいだったのに気分は雲泥の差。なんとか明るく振る舞おうとしてみたものの、隠しようがなかった。
「いいえ、ちょっと眠れなくて……、今日の午後少しだけ仕事抜けさせてもらっていいですか?」
「うん、いいよ。どうしたの?」
「ちょっと急な用事が出来てしまったんです、すぐに戻りますから」
「わかった、今日は無理したらダメだよ。辛くなったら帰っていいからね、疲れたら事務所で休んでもいいから」
「はい、ありがとうございます」
高杉さんの優しい言葉が辛い。
自分の撒いた種で自分を窮地に追い込んでしまったことが本気で悔やまれる。
どうして、もう一度川畑さんに会いたいなんて思ってしまったんだろう。もう会うことはないと思っていたのに、よりによって新しい職場に山中さんが現れたのがいけないんだ。
お母さんが電話してきたのも原因のひとつ。
きんかんジャムのことを確かめたかった。
それに、忘れようと思うのに忘れられないから。