今度こそ、練愛
「そうだよ、どこで見られてるかわからないんだから、私たちも気を抜いてたらダメなのよ、ね? 大隈さん」
「あ、はい、そうですよね」
いきなり呼ばれて適当に答えたつもりだったけど、焦ってしまって声が震えた。何を突っ込まれるのかと身構えているのがバレバレ。
「有希ちゃんだって、いつの間に……だもんね、そう言われると怪しいなと思うことはあったのよ?」
隣で仲岡さんが肘でつんつんと突いて、にやっと笑う。
「私は絶対に怪しいと思ってたのよ、有希ちゃんが店に入ってきてから、山中さんが毎日来るようになったんだから」
高杉さんに誇らしげに言われてしまったら、もはや返す言葉はない。
山中さんと正式にお付き合いしていることは、さっき山中さんにバラされてしまったところ。坂口さんとの婚約は単なる社内の噂だと、半ば強引に片付けて誤解を解いた上で。
仲岡さんと反対隣に座っている山中さんが、私の肩を抱いた。
「やっと、こうして堂々と有希って呼べるんだな」
「仕事中は絶対にやめてください、恥ずかしいから」
皆の前で呼ばれるなんて恥ずかしい。
名前を呼ぶなら二人きりの時にしてほしい。