今度こそ、練愛
席を立ってトイレから戻る途中、岩倉君がやって来た。
「ちょっとだけ、話したいんだ」
と言った岩倉君は皆の居るテーブルが見えないことを確かめて、そっと店の外へ。
もう、岩倉君は怖くない。
いつも無愛想な顔を見せていたのは、私が坂口さんの敵だったから。坂口さんの苦しむ姿をずっと傍で見てきたから、私に辛く当たっていたんだろう。
「本当にごめん、迷惑かけて」
「もういいよ、わかってもらえたから」
再び謝ってくれる岩倉君を見てたら、私まで申し訳なくなって二人で頭の下げ合いっこ。頭を上げたら目が合って、笑ってしまった。
「大隈さんの歓迎会の帰り、山中さんの車で送ってもらっただろ? 俺、寝たふりしてたんだ」
いきなり暴露されたけど、どう反応していいのかわからない。
「山中さんと私の会話、全部聞いてたの?」
「うん、聞いてた。山中さんが来て、食事してる時から大隈さんの態度が変化だったから、何かあると思って」
言われて見たら、そうかもしれない。
あの時、私は山中さんを見て動揺していたから。岩倉君の視線が痛かった訳もわかった気がする。