今度こそ、練愛
岩倉君がふわりと笑う。
「でも思ったんだ、俺にも望みがあるかもって」
「望みって?」
「山中さんも大隈さんのことを気にしてたから、二人がくっ付けばいいな……って思ってた」
ずっと坂口さんを思っていた岩倉君には、婚約者の山中さんが邪魔だった。坂口さんを振り向かせるためには、山中さんを排除するしかなかったのだろう。
「事情を知らなくて、ごめんね」
「山中さんとの婚約は彼女の父親が言い出したことなんだ、両親が離婚して父親に育てられてきたから彼女自身も逆らえなくて、父親に言われるがまま承諾したんだ」
あんなにも嫌だと思っていたけれど、本当は
坂口さん自身も父親に逆らえなかったという。お互いに愛はないけれど、父親の意思を貫こうとした彼女のプライドが彼女自身をも苦しめていた。坂口さんは父親のことを思っていたからこそ、山中さんとの婚約を解消できなかったんだ。
知ってしまうと胸が苦しくなる。
彼女のことを散々悪く言ってきたけれど、反省しなければ。
「坂口さんも苦しかったんだね」
「うん、だけどもう絶対に苦しい思いはさせないよ」
固く誓った岩倉君が、きゅっと口角を上げる。男らしさと力強さの滲んだ顔が輝いて見える。