今度こそ、練愛
ふと思い出したように岩倉君が振り向いた。
「そう言えば、ジュエリー部門の展示会で彼女に花の配置を指摘されただろ?」
「うん、結構キツい言い方だったから驚いたよ」
そう、あの時に私の中で坂口さんの印象が決まった。
「あの時の花、カラーだったろ? 彼女の嫌いな花なんだ」
「え? そうなの?」
思いもよらない言葉に肩の力が抜ける。
まさか、そんな事で配置を移動させられたのかと思うと少し拍子抜け。
「嫌な思い出があるらしいよ、だから見える所に置いて欲しくなかったんだよ、キツい言い方になってしまったけど、わかってあげてよ」
やっぱり岩倉君は彼女のことを本気で思ってるんだと実感させられる。
愛されてるっていいな……
と思ったら、いきなり後ろから抱き締められた。のしかかってきた衝撃に驚いたけれど、ひょこっと顔を覗かせる山中さんに一安心。
「二人で何をこそこそ話してるんだ? 岩倉君、有希に何かしたら許さないよ」
「何にもしてませんよ、山中さん、お世話になりました」
「ありがとう、これからもよろしくな」
二人が笑いながら拳を合わせる。
わだかまりのなくなった二人を見ながら、これからへと思いを馳せた。