今度こそ、練愛

いい雰囲気の私たちは、名残惜しさを感じながらレストランを出た。そろそろ帰ると母が言い出したから、ゆっくりと駐車場へ向かうことに。



すると後ろからヒールの音が追いかけてくる。
よほど帰りを急いでいる人なのか、ものすごい焦りの感じられる音に私は母の手を引いて道の端へ寄った。
続いて荷物を持った川畑さんも急いで避ける。



ところが、追い越していくと思っていた足音がぴたりと止まった。



振り向くと、川畑さんの腕を引いた女性。
きっと睨んだ彼女の顔を見た瞬間、背筋が凍りつく。



「何してんの? 仕事? それとも新しい女?」



ぶつけるような彼女の台詞が私の体を縛り付けていく。川畑さんは答えることなく彼女を見据えて、腕を振り払った。



「次から次へとあなたも大変ね、どの子が本命なのか自分でもわからなくなってるんじゃない?」



彼女は川畑さんの正面に立ちはだかり、刺々しい言葉を吐き捨てる。冷ややかな目で彼女を見据える川畑さんは無表情。



「人違いじゃないか?」



低い声で答えた彼の顔からは、私たちと話していた時の穏やかさはすっかり消えてしまっている。



事情がわからずおろおろしていた母が私に肩を寄せる。



「有希、どういうこと?」



不安いっぱいで尋ねる母の声が震えている。




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