今度こそ、練愛
母に答えることなんてできない私は、じっと川畑さんを見守っていた。私を縛り付けた恐怖が、じわじわと体を締め上げ始めてる。
「その子にバレたらマズい? ねえ、あなたも知ってるんでしょ? この人が何人の女を啼かせてるのか、いや、あなたもお客?」
ますます腹を立てた彼女が、私に向かって声を張り上げる。
上品な外観に似つかわしくない怒りに満ちた顔には嫌味な笑みを浮かべ、握り締めた拳を震わせて。
「やめろ、彼女は関係ない」
川畑さんの顔に怒りの色が滲み始める。
彼女は待っていたと言わんばかりの笑顔で迎えた。
「ほら、認めた。何が関係ないの? 彼女は何? お客? 本命? あなたの口から言ってあげたら?」
私を振り向いた彼女がゆるりと目を細める。
彼女の敵意は川畑さんだけではなく、彼と一緒にいる私にも確実に向けられている。
ふと彼と目が合った。
私の胸がぐらりと揺らぐ。
今ここに居る彼は私の彼氏。
彼女にとやかく言われる筋合いはない。
私を縛り付けていた恐怖がするする解けていく。