今度こそ、練愛

肩に寄り添う母の手を解いて歩き出す。



川畑さんの前へと進み出た私は足を踏ん張り、彼女を睨みつけた。大きく息を吸い込んで、身体中の力を集める。



「待ってよ、あなた何なの? さっきから、うだうだ勝手なこと言ってるけどいい加減にしてくれる?」



ひと息で吐き出した声は自分でも想像しなかったほど力強く大きくて、彼女に対抗するには十分だった。
彼女は唖然として、返す言葉を探している。



「有希……」



小さく呼びかける彼の声を背中越しに聞いた私の体に、さらに力がみなぎる。



「誰か他の人と勘違いしてるんじゃない? あなた、私の彼によく似た人にフラれたのかもしれないけど、言いがかりはやめてくれる? ホント迷惑だから、早く消えて!」



お腹に力を込めてぶつけた言葉は、彼女に相当大きなダメージを与えることができたようだ。彼女は戸惑いと怒りに顔を引きつらせて、口をぱくぱくさせるばかり。



「な、あなたこそ何言ってんのよ……」



彼女がようやく絞り出した声は震えている。
私は勝利を確信した。



川畑さんの元へと縋ろうとする彼女を睨んで静止して、彼の首へと両腕を回す。背伸びして顔を近づけてく私の腰を、彼の腕がしっかりと支えてくれる。



彼女の悲鳴が聴こえる中、私は彼と唇を重ねた。





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