今度こそ、練愛

店は既に閉店していたけれど、明るい店内にはまだお客さんが居座っているようだった。



福沢さんは鍵を探しに店内へ。
外で待ってる私は大通りを走るタクシーばかり目で追っていた。ここで拾うべきか、駅まで歩いて駅前のロータリーから乗るべきか……



「お待たせ、やっぱりここにあったよ」



ここに戻ってくる時とは比べ物にならないほど、福沢さんは軽い足取りで戻ってきた。酔った赤い顔に満面の笑みを浮かべているけど、どうもこの人の顔は好きになれない。



「よかったですね、じゃあ帰りましょうか」



一刻も早く別れるべく、私は大通りに向けて手を挙げる。今まさに私たちの方へと走ってくるタクシーへと。



ところが手が挙がりきらないうちに、福沢さんが腕を掴んで引き寄せた。
私たちの目の前をタクシーが通り過ぎていく。



「え? どうかしたんですか?」



掴んだ腕を振り払おうとするけど、なかなか離してくれない。邪魔された怒りさえこみ上げてきそうなところを堪えて穏やかに問いかけた。



だけど何を勘違いしたのか、福沢さんは目を細める。



「もう少しだけ、付き合ってもらえないかな?」



囁くような声に背筋がぞわりとした。






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