今度こそ、練愛
どうして私が付き合わなきゃいけないの?
さすがに腹が立ってくる。
だけど客先の人に対して暴言を吐くわけにもいかない。腕を掴まれたまま、私は深く頭を下げるしかなかった。
「ごめんなさい、今日は無理です」
「どうして? 今日じゃなかったらいいの?」
「ダメです、本当にごめんなさい」
「せっかく大隈さんと仲良くなれそうだから、もう少し話したいんだ」
嫌だ嫌だ、私は話したくない。
なんとかして逃げ出そうと必死に腕を振るけれど、掴んだ腕は解けない。解こうとするほどに強く引っ張られて、どんどん福沢さんとの距離が縮まっていく。
「本当にごめんなさい、離してください」
謝っても通用しないのに下手に出るしかない状況がバカバカしくなってきた。
さらに強く引っ張られて上体が傾く。このままじゃ福沢さんの胸に倒れこんでしまう。
そんなの絶対に嫌!
福沢さんにもたれかかる寸前、思いきり腕を前へと突き出した。その弾みで私を掴んでいた手が離れて、福沢さんが後ろへと倒れていく。
いやらしく細めていた目を見開いて、私へと伸ばした手は数センチ届かず。歩道へとみるみる崩れ落ちていく。
まるでスローモーションのように、福沢さんが尻餅をついた。