今度こそ、練愛
終電が失くなった時間だというのに、歩道を歩く人はまだ絶えない。お酒を飲んだ後の緩んだ顔で、私たちを眺めながら通り過ぎていく。
まるで見せ物だ。
「痛ぁ……、ったく」
舌打ちをして立ち上がる福沢さんの目つきが変わった。
もしかすると、これは非常にヤバい状況かもしれない。とっさに身構えて考えた、私が謝るべきなのか。
でも私は何にも悪くない。
私は何度も断ってるのに、帰るって言ってるのに、言ってもわからない福沢さんが悪いのだ。
「せっかく誘ってやったのに……何だ、その態度は? 本当は寂しいんだろ?」
福沢さんが歩み寄ってくる。
伸ばした手が小刻みに震えているのは怒りからに違いない。
避けようと後退ったらヒールがカクンと宙に浮いて、踏ん張りどころを失くした体が後ろへと倒れていく。歩道から足を踏み外した私は車道へと崩れ落ちて、ぺたんとアスファルトに座り込んだ。
見上げたら福沢さん。
ふんっと鼻で笑って、口元に笑みを浮かべる。
立場逆転か……、悔しい。
「ほら、来いよ。送ってやる」
エラそうな言葉とともに、福沢さんは乱暴に手を差し伸べた。勝ち誇った顔で私を見下ろして。店内で話していた時の丁寧な口調は何処へやら。