今度こそ、練愛
大きくて立派なセダンタイプの車。座り込んでいる私のことを見えているのかいないのか、ぐんぐんバックしてくる。
すぐ手前で停まった車の運転席のドアが開いて、スーツを着た男性が降り立った。
あの横顔は……川畑さん?
スーツを着た川畑さんは無表情で、私たちの方へと歩いてくる。
「何だよ……、お前の彼氏?」
何かを察してうろたえ始めた福沢さんが、声を震わせて問い掛ける。
だけど私は完全に無視、答えてやるものか。
「有希、何してるの?」
福沢さんなどには目もくれず、川畑さんが問い掛ける。スーツを着ていることに違和感はあるけれど、昭仁を演じてくれていた時と同じ穏やかな表情と柔らかな声で。
「そこの店で職場の懇親会があって、今帰るところなの」
今まさに懇親会を終えた店を指差した。
私の指を追う川畑さんの顔を窺いながら、福沢さんは目を泳がせて落ち着かない様子。
思わず笑ってしまいそうになるのを堪えるのが辛い。
「懇親会? 二人だけで?」
「ううん、ホントは四人だったの。彼が店に忘れ物をしたから取りに戻ってたから」
おどおどして私たちを見つめる福沢さんは、きっと川畑さんを私の彼氏だと思っているのだろう。