今度こそ、練愛
「ふぅん、忘れ物は見つかった?」
「うん、見つかったから今帰ろうとしてたところ」
「それはよかった、だけどもう終電無いだろ? どうするつもりだったの?」
「だからタクシー拾おうとしてたら、ココで足を踏み外してコケたっていうわけ」
「相変わらず有希はドジだなあ……、よかったら送ろうか?」
くすっと川畑さんが笑うのと同時に、福沢さんの強張った体の力が抜けるのがわかる。やっと余裕が出てきたような顔で振り向くから、慌てて逸らして川畑さんの腕にしがみついた。
「ありがとう、タクシー捕まらなかったらどうしようって怖かったの」
「そちらの彼は? よかったら送りましょうか?」
「いいえ、結構です。失礼します」
福沢さんはくるりと方向転換して、速足で逃げて行く。
私たちを遠巻きに眺めていた歩道のギャラリーはいなくなり、さっきまで食事していた店の照明も消えていた。暗くて閑散とした風景の中で、やたらと胸のざわめきが気になってしまう。
「行こうか、送るよ」
呼びかけられてようやく、川畑さんと腕を組んでいることを思い出した。すぐに腕を解こうとするのに、川畑さんはきゅっと腕に力を入れて逃がしてくれない。
「いいよ、このままで行こう」
と言った川畑さんは、私を車へと案内した。