今度こそ、練愛
「たまたま通りがかったら、君によく似た人が路肩に転がってたんだ。人違いかと思ってよく見たら君だったから驚いたよ。彼に絡まれてたの?」
ハンドルを握る川畑さんが尋ねもしないのに話してくれる。こんなに話す人だと思っていなかったから意外。
もしかすると、これが本来の川畑さん?
「ありがとうございました、ちょっとしつこい人だったので助かりました」
「どういたしまして、僕も君に助けられたから」
そうか、あの時のこと。私に自覚はないけれど、縋る彼女から川畑さんを助けていたことになっているんだ。
「いいえ、あの時はそうするしか思いつかなくて……」
本当は私自身のためでもあった。あの時の川畑さんは私と母にとっては昭仁だったから、他の女性が登場しては非常に困る状況。
「僕も同じだよ、さっきはそれしか思いつかなかったんだ」
「ありがとうございます、これでお互いに貸しも借りも無しということですね」
「そうだな」
川畑さんは笑顔で答えたきり口を噤んだ。
再び口を開いたのは、私を家に送ってくれた別れ際。
「また、どこかで会うかもしれないな」
軽く手を挙げた川畑さんの笑顔は、たぶん川畑さん自身の笑顔のような気がした。