鬼部長と偽装恋愛はじめました
私はこの会社に勤め始めて、やっと胸を張って歩けるようになった気がする。

オフィスビル街の一等地にある本社ビルで、誰かの役に立つ仕事をしていることが、自信になっていた。

もちろん仕事は忙しいことが多くて、大変なこともしょっちゅうだけど、私は今の仕事に大満足している。

田舎出身の私が、こんな大都会の場所でそれなりに活躍出来るなんて、きっと家族でさえ想像してなかっただろうから。

だから故郷に帰ることはない、そう決めている。

「はぁ……。若狭部長、また海外赴任にならないかな。部長がいなくなれば、かなりオフィスも平和になるのに」

帰宅しアパートへ戻った私は、すぐさまベッドへ寝転がった。

一Kで築三十年の古びたアパートだけど、駅近が魅力で住んでいる。

ベッドとチェスト、それと小さなドレッサーがあるだけの味気ない部屋だ。

それでも、最近は部長のせいでストレスが溜まるからか、自宅へ戻ると安らぎを感じていた。

とりあえず、冷蔵庫にあるもので、食事を作ろうかと思ったとき、スマホが鳴った。

「あれ? 実家からだ。なんだろう……」

それは、三ヶ月ぶりの実家からの電話だった。
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