鬼部長と偽装恋愛はじめました
香坂さんの言葉に、祐平は唇を噛み締めて黙っている。

「あの……。フリーになるって、どんな仕事なんですか?」

機械メーカー勤務からフリーというのも、ほとんど想像できない。

「経営コンサルタントに似た仕事ね。もっと幅広く、対象者も企業経営者や上層部に拘らないでね。私、ニューヨークで有志と会社を立ち上げるんです」

「そ、そうなんですか⁉︎」

「ええ。だから、祐平もメンバーになってほしいのに。最初は大変かもしれないけど、絶対に成功するはずなんです」

香坂さんに言われると、そうなのかもしれないと思ってしまう。

それぐらいに、彼女には気迫があるし、研修の印象からもビッグマウスでないことも分かった。

「それなのに祐平、どうして気が変わったの? まさか……本城さんと付き合っているから?」

香坂さんがそう言うと、祐平はすぐに反応した。

「そんなわけないだろ? 彼女とは付き合い始めたばかりだし、関係ない。もっと前から決めていたんだ」

眉間にシワを寄せた祐平は、まるで睨むように香坂さんを見ている。

「まだ帰国して二年も経ってないのよ? それなのに心変わり? 全然、納得できない」

吐き捨てるように言った香坂さんに、祐平は語気を強めた。

「なんで、お前を納得させないといけないんだ? だいたい、オレは一度も話には乗っていない」
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