鬼部長と偽装恋愛はじめました
玄関先で、祐平はしばらく言葉を失っていた。

そして、小さく息を吐くと、気を取り直したように私を見た。

「いろいろ、不安にさせたと思う。本当にごめん。だけど、香坂に未練があるわけじゃない。今回の研修も会社での委託で、オレの私情から香坂をよんだわけじゃないから」

「うん。それは、今のやり取りを見て、信じられる。それより、祐平のフリーの話は? すごくビックリしたんだけど」

そんなことを考えていたなんて思ってもみなかったし、まさか本当は私に原因があるとかじゃないよね?

不安を感じながら祐平を見ると、そっと肩を抱かれリビングへ連れていかれた。

そしてソファーに座らせると、私の手を握った。

「たしかに、フリーを考えていた時期もあった。だけど、オレは帰国して、香奈美たちと一緒に仕事をするなかで、見えたものもあるんだ」

「私たちと? どんな?」

「お前たち部下を育てること。それまでは、独りよがりな考え方をしていて、自分の能力を試すことばかりだった」

ゆっくり説明してくれる祐平に、私は自然と聞き入っていた。
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