鬼部長と偽装恋愛はじめました
「だけど、ひとつの組織で部下を育てて、活躍していく姿を見るのも、楽しいなって思うようになった」

微笑む祐平は、私の髪を耳にかけながら続ける。

「たとえば、香奈美と毎日バトルするのも、オレには楽しいんだと思ったんだよ」

「本当に? 私、しょっちゅう反抗してるのに」

ふふっと笑うと、祐平も笑みを大きくした。

「本当だよ。意外と上司にはな、イエスマンじゃない方が、好かれるんだよ」

と言った祐平は、私の頬にキスをする。

「フリーのことは忘れて。本当にまたそれを考えることがあれば、必ず香奈美に相談する」

「うん……」

そうだよね。祐平が考えたことなら、私がとやかく言う問題じゃない。

彼がそう言うなら、それを素直に受け止めよう。

「だけど香坂さん、なんでここが分かったの?」

教えたのかな……と複雑な思いを抱えていると、祐平がバツ悪そうに答えた。

「初日の飲み会で、オレがここに住んでることを、他の部長たちが言ったからだろうな。マズイなとは思ったんだけど」

「そうなんだ。それなら、安心した。まさか、祐平が話したのかなって思ったから」

ハハハと笑って誤魔化すと、祐平はムッとした。

「そんなわけないだろ? オレは、香坂とでも見つけられなかった安らぎを香奈美に感じてる。いつも、真っ直ぐで不器用なお前が好きだから」

照れくささで黙った私に、祐平はキスをした。
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