鬼部長と偽装恋愛はじめました
母と会ったときに祐平が、『結婚します』なんて言ったけど、あれはもちろんその場しのぎ。

本気で彼が思っているのかは、まったく分からない。

《もしね、そういう話が出たら、よくよく考えなさいよ》

《どういうこと? お母さんは、祐平さんとの結婚には反対ってこと?》

じわっと不安が押し寄せると、母が一蹴した。

《まさか。むしろ大賛成よ。あんなイケメンでエリートな人。そうじゃなくて、海外赴任もあるんでしょ?》

《うん。たぶん……》

《それを言ってるのよ。もし旦那さんが海外赴任なんてなったら、香奈美は仕事を辞めざる得ないわよ? それを考えなさいと言ってるの》

そんなこと、考えてもみなかった。

祐平は帰国したばかりだから、すぐに海外赴任はないと思う。

だけど、あれほど有能で、海外拠点に力を入れている会社なのだから、母の言うこともあり得るかも……。

《じゃあね、香奈美。元気で》

《う、うん。ありがとう》

母と電話を終えた私は、しばらく放心状態だった。
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