鬼部長と偽装恋愛はじめました
「もしもし?」

気が滅入りながら電話に出たからか、思わずため息が混じる。

実家からの電話なんて、きっとロクな話じゃない。

顔を見せに帰ってこいだの、都会でうまくやれているのかだの、有難いけど鬱陶しい内容が多いからだ。

何の用だろうかと構えていると、甲高い母の声が聞こえてきた。

「ちょっと香奈美! あんた、全然連絡してこないけど、元気なの?」

やっぱり大した用事じゃなかったと、ウンザリする。

このまま話に乗っていくと、最終的には帰ってこいとなるのはいつものお約束だ。

ここは、早めに電話を切るしかない。

「元気よ、元気。元気だから、連絡してないのよ。それよりお母さん、用事はそれだけ? それだけなら、切るよ?」

すると、母は慌てるように引き止めてきた。

「ちょっと待ちなさい、香奈美。お母さんが送った封筒、まだ見てないの? 昨日送ったんだけど」

「封筒? そういえば、まだポストのチェックしてなかった」

だいたいいつも不要なダイレクトメールばかりだから、すっかり後回しになっていた。

「もう、相変わらずのんびりなんだから。今日辺り届いてるはずだから、確認してきて」

「う、うん……」

わざわざ電話をしてくるくらいの郵便って、なんだろう。

やれやれと立ち上がりポストを確認すると、A四サイズの封筒が届いていた。
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