鬼部長と偽装恋愛はじめました
これで、少なくともお見合いは諦めてくれるだろう。

と思ったのに、母は声のトーンを低くして疑いたっぷりの口調で聞いてきた。

「香奈美、それは本当なんでしょうね」

「本当よ」

さすが、一筋縄ではいかなさそうだけど、こっちも真剣だ。

引くに引けなくなり、なにがなんでも彼氏がいることにしなくてはいけない。

「じゃあ、その人に会わせなさい」

「えっ⁉︎ 会わせる?」

まさか、その展開は想像してなくて、動揺が広がってくる。

「そうよ。香奈美ももう28歳でしょ。付き合っているからには、真剣なんでしょうから、その人がいい人ならお見合いは諦めます」

「う、うん……」

ハッキリと言われ、私は小さく返事をするだけだった。

「いいわね? 今週末、お父さんとお見合いの相手も連れて行くから、絶対に会わせるのよ!」

「えっ? お見合いの相手まで? ちょっと待ってよ、お母さん」

あまりに唐突な話に戸惑いばかりだというのに、母はそのまま乱暴に電話を切った。

お見合い相手まで連れてくるなんて、母の決心が固いことが分かる。

このままじゃ、本当に説得しきれないかもしれない。

とにかく、今週末までに彼氏を作らなければ。

だけど、どうやって……?
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