鬼部長と偽装恋愛はじめました
「そう。でも、肝心の彼氏がいないから……」

深くため息をつきながら、徐々に絶望感が込み上げてくる。

週末までに、彼氏なんてできるわけがない。

このまま母を説得できずに、帰らないといけなくなってしまうのか。

伏し目がちになったとき、真由が小さくテーブルを叩いた。

「ピッタリの人がいるじゃない。若狭部長に彼氏の振りを頼んでみたら?」

「若狭部長に⁉︎ 無理よ、絶対に無理」

よりによって、ここで部長の名前が出てくるなんて……。

思いきり手を振り拒否する姿をみせると、真由は口をへの字にした。

「帰りたくないんでしょ? それに若狭部長なら、絶対に香奈美のお母さんも納得するって」

若狭部長なら、イケメンでエリートで、母もさすがに文句は言えないだろう。

だけど、たった一日だけでも彼氏の振り頼むだなんて、そんな勇気はない……。

ないけど、今のここでの生活を捨てる勇気は、さらになかった。
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