鬼部長と偽装恋愛はじめました
「部長、実はこれには理由があって……」

険しい顔で私を見る部長に、母の話をする。

どうにか話は聞いてもらえ、部長は大きなため息をついた。

「オレが、本城の進退のために恋人の振りをしろと?」

まるで納得できないといった感じで、部長は口をへの字にしている。

「すみません。でも、どうしてもここでの仕事を続けたくて……」

「じゃあ、異動願い出せばいいんじゃないか? 本城の故郷にも支社がある。結婚が理由なら、会社も許してくれるから」

冷たく言い放つ部長に、私はすぐには反論できない。

部長の言うことももっともだけど、好きでもない人と結婚なんてしたくないし、田舎の町にも帰りたくない。

すべては自分のワガママだと分かってる。

でも、本社で働く意味は大きくて、仕事の幅も広がるから、ここを意に沿わない形で離れたくなかった。

「私、もっと本社勤務で頑張りたいんです。だから、不本意のまま故郷には帰りたくないんです」
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