鬼部長と偽装恋愛はじめました
すると、部長は腕組みをしたまま、しばらく考え込んでいる。

「本当に、その日のほんの数時間でいいんです。母たちは、日帰りで帰ると言ってるので……」

もし断られたら、頼れる人がいない。

すがる思いで部長を見ていると、冷ややかな視線を向けられた。

「そもそも、なんでオレなんだ? いつも、憎らしげに見てるじゃないか」

「えっ⁉︎」

それは、他に該当できる人がいないからで、本当に頑固な人だな……。

無茶振りをしてるのは私だと分かっていても、少し腹がたつ。

そう思ったら、意地の悪い自分が出てきた。

「部長、知ってます? 私たちって、お互い好き合ってるって噂があるんですよ」

「はあ⁉︎ なんだそれ⁉︎」

どうやら部長は知らなかったらしく、ア然としている。

「だから、昨日のお昼に会議室であった出来事、誰にも話されたくないですよね?」

「昨日の昼? なんのことだよ?」

「私が部長に、“あーん”ってしたことですよ。それを話したら、きっと噂は大きくなって広まるでしょうね」
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