鬼部長と偽装恋愛はじめました
「は、はい……。そうです」

部長の勝ち誇ったような言い方で確信する。

これは、絶対にわざとだ。

私が嫌なのを分かって、要求してる。

半ば脅して部長に彼氏役を引き受けてもらった気でいたけど、もしかして私の方が手のひらで転がされてるのかもしれない。

仕方なくメアドも書くと、部長はメモをサッと取り上げた。

「どうせやらなきゃいけないなら、さっそく恋人の振りを始めようぜ。じゃあ、今夜メールする。お疲れ、香奈美」

「えっ⁉︎ ちょ、ちょっと部長!」

突然、名前を呼び捨てにされたことや、メールをするなんて言われたことに、動揺を隠しきれない。

でもそんな私に不敵な笑みを向けただけの部長は、平然とオフィスに戻っていった。

そして夜、言われたとおりに、部長からメールがきた。

《お疲れ、香奈美。また明日。おやすみ》

シンプルな内容だったけど、“おやすみなさい”と挨拶を交わすだけで緊張してしまい、次の日は部長を意識せずにはいられなかった。

だけど部長は相変わらず、怒号を飛ばして部下に“激”を与えていた。
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