鬼部長と偽装恋愛はじめました
いよいよ母と会う土曜日になり、待ち合わせ場所である中心地にある高級ホテルに着く。

「あと十五分か……。ホテルのロビーで大丈夫なのか?」

部長は私の隣に立ち、腕時計で時間を確認している。

チラリと見えたそれは、海外の高級ブランドのもので、心の中で驚いた。

「はい。たぶん、そろそろ着くとは思うんですが……」

ロビーを見渡す限り、それらしき人影はない。

それにしても、部長のスーツ姿は見慣れているはずなのに、今日は額を出すように髪を上げているからか、色っぽく見える。

ドキドキしている自分が悔しくて、あえて部長から視線を外した。

「そういや香奈美、お母さんの前で“部長”はやめろよ? 不自然すぎるから。それと敬語も」

ふとそう言われて、部長に視線を戻した。

「じゃあ、なんて呼べば……?」

「祐平。ちゃんと名前で呼べ。ったく、そんなことじゃ、すぐボロが出るぞ?」

呆れ顔の部長に、私は少し胸が温かくなる。

「部長、なんだかんだで、心配してくれているんですね……」
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