鬼部長と偽装恋愛はじめました
と言うと、部長はさらに呆れた表情を向けた。

「そうじゃない。休みの日に付き合わされてるんだ。なにがなんでも、成功させないと、割に合わない」

キッパリ言われ、今度は私が呆れる。

「なるほど、部長にとっては、これもビジネスってわけですね」

さすがというか、こういうときでもというか……。

損得勘定が働くんだろうなと、半分嫌味で言ってみた。

「だから、部長じゃない。それと、敬語もやめろ」

「はーい」

頼んでいるのはこっちだから、おとなしく言うことを聞こう。

ずっと続いていた“おやすみメール”も、今夜からはないわけだし……。

部長から“香奈美”と呼ばれることもなくなる。

それまでは、素直に従っておこう。

「それにしても、香奈美の私服って初めて見たけど、センスいいんだな」

「えっ? そ、そうですか?」

これは、褒めてもらえていると思っていいんだよね……?

「ああ。色使いとか、小物の使い方とか、ちゃんと考えてるんだなって感心した」

「ありがとうございます……」

たしかに、今日は両親だけじゃなく、お見合い相手も来るから、クリーム色のワンピースにして落ち着いた雰囲気にしている。

地味すぎないようにと、ベルトやバッグ、ネックレスには気をつけたけど。

部長って、仕事一辺倒って感じだったから、オシャレとか疎いのかなって、勝手に思い込んでいたけど違ったみたい。
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