鬼部長と偽装恋愛はじめました
よくよく思い返せば、部長のスーツも仕立てのよいものばかりだし、今だって高級腕時計をサラッと身につけてる。

清潔感と品の良さがあることに、初めて気づいたと思う。

普段はあの怒号のせいで、かすんで分からなかったんだろう。

だけど、部長がちゃんと私の服装まで見てくれていたことが意外。

『割に合わない』なんて言われたときは、冷めた考え方だと思ったけど、そればかりでもないのかな……。

なんて思っていたとき、

「香奈美!」

前方から母の声が聞こえ、大きく手を振る姿が見えた。

「おい、あの方か?」

部長が囁くように言い、私は小さく頷いた。

「はい、母と父です」

いよいよ始まる両親との対面に、緊張で鼓動が速くなっていくのを自覚した。
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