鬼部長と偽装恋愛はじめました
“仕事熱心”という言葉が、部長の本心からの言葉じゃなかったとしても嬉しい。

黙ってふたりのやり取りを見守っていると、母はさらに興味深そうに聞いてきた。

「そうなんですか? 香奈美は、きちんと仕事ができているのか不安だったんですが……」

「そんな心配は必要ありません。彼女は、営業のサポートとして不可欠な存在ですし、伸びしろがある。彼女のよさを、僕が引き出したいと思ってるんですよ

「まあ……。それなら、安心しました」

部長の言葉は、母には効果てきめんだったらしく、母は満足そうに目を伏せた。

それにしても、部長の人の変わり具合には驚かされてばかりだ。

私の仕事ぶりを、そんなに評価してくれているとは思えないけど、それでも嬉しかった。

話の合間にも、オーダーしていたコースの料理が運ばれてくる。

「フランス料理なんて、何十年ぶりだわ」

白身魚のワイン煮を堪能している母は、料理に気が向いている。

この調子なら、お見合いも白紙にして帰ってくれそうだ。

良かった、と安心しかけたとき、しばらく黙っていた佐原さんが部長に問いかけてきた。

「なあ、祐平。お前、香奈美さんと結婚する気あるのか? ないなら、彼女のことは諦めてほしいんだけど」
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