鬼部長と偽装恋愛はじめました
なんとか母を説得して、ようやく帰路につけることになりホッとする。

二時間程度だったのに、とても長く感じられた。

駅まで部長と見送りに行くと、母は別れ間際に、私にニヤッとして言った。

「若狭さんが、香奈美との将来を真剣に考えてくれていて安心したわ」

「ハハ……。だから、お母さんは安心して帰ってね。そして佐原さん、申し訳ありませんでした。私の答えは、もうお分りだと思いますので」

ペコリと頭を下げると、佐原さんは口角を上げて微笑んだ。

「オレは、まだ納得してないよ。学会で来る機会があるし、香奈美ちゃんにはまた会いたいと思う」

「えっ……?」

諦めてくれてなかったの?

呆然とする私の肩を軽く叩いた佐原さんは、出発を告げるアナウンスが流れ始めたと同時に、母たちと新幹線に乗り込んだ。

「和樹のやつ、本気なんだな。どうする? たぶん、しつこくやって来るんじゃないか?」

部長の声がして、我に返り振り向く。

腕組みをする部長は、私を試すように見た。

「オレたちが付き合ってないことがバレるのも、時間の問題だな。どうする?」

「どうするって……」

部長には、今日だけの恋人役としてお願いしたのだから、これ以上のワガママは言えない。

それでなくても、イヤな思いをさせてしまったのだから。
< 36 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop