鬼部長と偽装恋愛はじめました
真っ直ぐ部長を見据え、深々と頭を下げた。

「部長、本当にありがとうございました。それと、不本意なことまで言わせてしまい、申し訳ありませんでした。もし、母や佐原さんに疑われたら……」

「疑われたら?」

「部長とのことは、ウソだったと正直に話します。そのうえで、どうしても帰りたくないと説得します」

自信はないけど、自分の問題に部長を巻き添えにしたことを、今さらながら後悔する。

「できるのか? お前のお母さん、相当本気な感じだったけど」

「頑張ります。部長には、これ以上の迷惑はかけられません。それに、初めて仕事ぶりを評価してもらえて嬉しかったし、あの言葉は母に効いたみたいなので」

こっちで地に足をつけて頑張れている、それを分かってもらえれば、きっと理解してもらえるはずだ。

部長に小さな笑みをみせると、呆れた顔をされた。

「ったく、そこまで本社勤務を頑張りたいっていう意気込みは評価するけど」

「ですよね! だから、これからも頑張ります。部長、よろしくお願いします」

気合を入れる私を、部長はやれやれといった顔で見る。

鬼のような怒号は、やっぱり慣れそうにないけど、今日私のために部長が使ってくれた時間と気持ちは心底感謝する。

そう思ったら、今までよりは少しだけ、距離を近くに感じた。

本当に、少しだけだけど……。
< 37 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop