鬼部長と偽装恋愛はじめました
次の日の日曜日、朝からアパートのチャイムが鳴り、引越し業者が来て度肝を抜かれた。

「えー、本日は若狭祐平さま宅へのお引越しですね」

「えっ⁉︎ ちょ、ちょっと待ってください。私、引越しなんて頼んでません」

ふたりのお兄さんは、A四サイズの紙を確認している。

「いえ、承っていますが。本城香奈美さまですよね? 本城明子さまから伺っておりますが……」

「ええ⁉︎」

どうやら、引越しを依頼したのは母らしい。

まさか、こんな強行手段に出るなんて信じられない。

昨日、お礼の手紙を送りたいからと、母が部長の家の住所を聞いていたのはこの為だったのね……。

「待ってください! 私は、若狭さんの家には引越しませんので」

慌ててお兄さんたちを制すると、彼らはまたもや紙を確認している。

「それでは、ご実家の方へ運び入れることになっているようですね」

「はぁ⁉︎」

なによ、それ。

開いた口が塞がらないくらいに呆然とする私に、お兄さんたちは淡々と尋ねた。

「で? どちらにするんですか?」

「……若狭さんの方へ……」

どうしよう……部長になんて話せばいいの……。
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