鬼部長と偽装恋愛はじめました
モヤモヤしたまま昼休憩になり、噂を思い出してはため息をつく。

そもそも噂の出所はどこで、どれくらいの人が知っていることなのか。

とにかく、誤解を解かなければいけないから、その方法を見つけないと……。

あれこれ考えながら、お弁当を片手に空き会議室のドアを開けた途端、

「あれ? 本 城もここで昼メシか?」

若狭部長の声がして固まった。

「ぶ、部長⁉︎ なんで、ここにいるんですか⁉︎」

わざわざフロアを移動して、しかも端の会議室を選んだというのに、不幸過ぎる偶然に肩を落とした。

せっかく一人でランチがしたかったのに、これじゃまるで意味がない。

「なんでって、ここなら人が来ないだろうと思ってさ。休憩くらい、ゆっくりしたいんだよ」

と言いながら、部長が見ているのはビジネス雑誌だ。

「へえ。そうなんですか……」

ビジネス雑誌を読むことがゆっくりすることだなんて、いかにも部長らしい。

それにしても、お弁当を食べる場所をどうしようか。

正直出ていきたいところだけど、あまりにも露骨で失礼過ぎる気がして、さすがに出来そうにもない。

きっと部長は、日頃の態度で、私が部長を煙たがっているのは分かっているだろうし。

仕方ないから、今日はここで食べることにしよう。

おずおずと、部長より四席離れた場所に座る。

だけど丸テーブルだから、離れてもちょうど視界に入る位置に部長がいて落ち着かない。

何が嬉しくて、部長と二人きりで昼休憩なんだろう。

とにかくさっさと食べてしまおう、そう思った時だった。

「本城の弁当って、手作りなのか?」

部長が声をかけてきて、私の箸を持つ手は止まった。
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