鬼部長と偽装恋愛はじめました
ギュッと包み込まれるようで、収まりかけていたドキドキが蘇る。

「ちょっと、部長。なにするんですか……?」

照れ隠しでそんな言い方しかできないのに、部長は余裕たっぷりにニッとした。

「少しは自然に振る舞えよ。オレたちは“恋人同士”なんだろ? それも結婚前提の」

車はいつの間にか目的地へと着いていて、部長はエンジンを止めた。

「もしかして部長、結構楽しんでます?」

顔が熱くなるのを感じながら、恨めしく部長を見る。

すると、部長はクックと楽しそうに笑った。

「案外、分かりやすいんだなって思って。普段は、眉間にシワ寄せて仕事してるのに」

「そ、それって……」

なんだか見透かされてるようで、とにかく気恥ずかしい。

それでも部長を睨み続けていると、部長は握っている手とは反対の手で、私の眉間をトントンと叩いた。

「そういう顔は、会社だけでいいだろ? 素直に恥ずかしいって言えばいいのに」

「えっ⁉︎」

やっぱり私のことはお見通しみたいで、部長はさっさと車を降りた。

「ほら、香奈美。行くぞ」
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