鬼部長と偽装恋愛はじめました
きっと、ドキドキしている気持ちも、部長には分かってる……。

車を降りて店に入るまでの間に、部長は私の手に指を絡めてきた。

「ちょ、ちょっと部長、やり過ぎじゃないですか?」

「普通だろ? それと、プライベートで“部長”はやめてくれないか? 仕事してる気になる」

部長はそう言って、私を引っ張るように歩いていく。

「そう言われても……」

と困った素振りをみせると、部長は鼻で笑うように言った。

「お母さんの前では、ちゃんと名前で呼べてたじゃないか。祐平でいいから、部長はとにかくやめろ」

あのときは、ほとんど無我夢中だったからできたけど、改めると恥ずかしい。

だけど、部長の言うとおりで、プライベートで“部長”を連呼するのも不自然かもしれない。

「じゃ、じゃあ……祐平で。呼び捨てにしますよ? いいですか?」

恥ずかしさを隠しながら言うと、部長……ではなくて祐平は、ニッとした。

「ああ、いいよ。その方が、恋人っぽいもんな」
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