鬼部長と偽装恋愛はじめました
「えっ? そうですけど、それが何か?」

「ふうん。スゴイじゃん。見た感じ、冷凍ものではなさそうだし」

さすが、鋭さには感心する。

てっきり雑誌を読んでいたのかと思ったのに、視線はしっかり私のお弁当に向いている。

「そうですよ。こう見えて、料理は得意なんで」

「へぇ。立派じゃん。毎日、忙しいだろうに」

と、言葉の割にはどうでもよさそうな口調で、だったらいちいち聞いてくるなと、心の中でボヤく。

部長はサンドイッチを片手に、また雑誌を読み始めた。

「部長は、料理をするんですか?」

今度は、こっちから質問してやろうと思ったのは、聞かれっぱなしもシャクだから。

すると、部長は視線を雑誌に向けたまま、ぶっきらぼうに返事をした。

「いや、全然」

「じゃあ、毎日お惣菜ですか? それとも、誰か作ってくれる人がいるとか?」

最後が踏み込んだ質問だったからか、部長は私をジロッと睨んだ。

その威圧感に気圧され、小さくなる。

さすがに、しつこかったかと反省して素直に謝った。

「すみません、答えてくださらなくていいです」

少しイスを動かして、部長に背を向ける形で卵焼きを頬張る。

「自炊が面倒臭いから、やらないだけ。オレ、今は彼女いないから」

突然の返事に戸惑いながら、チラッと振り向く。

すると部長は、変わらずサンドイッチを口にしながら、雑誌を読んでいた。

「そうなんですか。それは、それはお体に気をつけて」

わざとらしい言い方をした私を、部長はチラッとだけ見て、また雑誌に目を落とした。

それにしても、部長って毎日お惣菜とかのご飯を食べてるんだ……。

それって栄養、偏るよね……。
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