鬼部長と偽装恋愛はじめました
店の中に入ると、そこはまるでたくさんの部屋があるかのように、雰囲気ごとにブースが作られている。

木目調の家具や小物ばかりが置かれた場所や、パステルカラー調の家具など、ざっと見渡しても十種類はある。

「素敵。こんなにあると、迷いますね」

すっかりテンションが上がった私は、無意識に祐平の手をほどいて、一番近くのコーナーに行こうとしたときだった。

「ちょっと待て。ひとりで行くなよ」

私の腕を掴んだ祐平が、渋い顔で見ている。

どうして引き止められたのか分からない私は、疑問を抱えつつ祐平を見る。

「子どもじゃないんだからさ。こういうのは、ふたりで見るもんだろ?」

「え? な、なにもそこまで徹底しなくても」

また、ドキンと胸が高鳴る。

どうしてOFFの顔の祐平は、こんなにも私をドキドキさせるんだろう。

あんなに苦手な、“鬼部長”のはずだったのに……。

それに、部長を名前で呼ぶと、不思議と存在を近くに感じる。

「いい加減、自覚しろって。オレたちは、“恋人同士”なんだよ」
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