鬼部長と偽装恋愛はじめました
お風呂も済ませ片付けを終えると、二十三時になっていた。

「祐平は、普段はどうやって過ごしてるの? もし、趣味の時間とかあるなら、遠慮なくいつもどおりにしてね。私は、夜景見てるから」

プライバシーもお構いなしに、ここへ来てしまったし、祐平もひとりの時間がほしいに違いない。

そう思ってバルコニーへ出ようとした私の手を、祐平が掴んだ。

「夜景じゃなくて、オレを見て」

「祐平……」

引き寄せられるように引っ張られ、そのまま強く抱きしめられた。

「いつもみたいな、オレを睨むような目じゃなくてさ」

少しからかうような言い方に、私もクスッと笑った。

「祐平だって、会社だと怖い部長になるじゃない。でもふたりだと、優しいんだね。知らなかった……」

「ふたりっていうか、香奈美だからだな」

「どういう意味?」

抱きしめられていて、祐平の表情は見えない。

だけど口調は今までにないくらい、優しく穏やかだった。
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