鬼部長と偽装恋愛はじめました
黒のパンツスーツに、髪はアッブにしている。

目鼻立ちのハッキリとした美人で、いかにも仕事ができる風だ。

ノートパソコンを机上に広げ、立ったままなにかを見ていて、祐平に時折話しかけている。

一体誰なんだろうと疑問に思っていると、ちょうど私たちの後ろに座った営業さんの会話が聞こえてきた。

「あれ？ あの人、部長の元カノじゃないか？ たしか、もう別れたとは噂で聞いたけど」

「マジで？ なんで知ってるんだよ」

“元カノ”というフレーズが出てきて、私の意識はそっちへ集中する。

どうやら、一緒にいるあの女性のことらしい。

「オレさ、一年だけニューヨーク勤務が部長と一緒だったときがあって。あのときから、有名だったんだよ」

言われてみれば、祐平もニューヨーク勤務のときに彼女がいたと話していた。

でも、なんでその人がここへ？と思っていると、後ろの会話は続いていく。

なんでも、彼女は香坂早苗（こうさか さなえ）さんといって、外部委託をしている講師らしい。

ニューヨーク支社では頻繁に来る人らしく、コミュニケーションや営業トーク、さらに仕事に対する考え方などを指導する人らしい。

英語が堪能でかなり優秀らしく、ニューヨーク支社でも部長をしていた祐平と付き合っていたことは、みんな知っていることらしかった。
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