鬼部長と偽装恋愛はじめました
出勤してオフィスにいる祐平は、ふたりきりのときとはまるで違って、部長の顔一色になる。

私も、仕事中は私情に振り回されたくないと思うのに、心の隅に香坂さんの影が、どうしてもちらついていた。

「本城、ちょっといいか?」

祐平に呼ばれて彼のデスクへ行くと、十枚ほどのA四用紙を渡された。

「これを二十部コピーして、ホッチキス留めしてほしいんだ。一課のデータだから、本城に頼んだんだけど、時間あるか?」

「大丈夫です。余裕がありますから。では、至急用意するということで、よろしいですか?」

チラッと見る限りでは、どうやら一課の営業成績のデータっぽい。

これをどうするのだろうと思っていると、祐平が言った。

「ああ。作ったら、総務に持って上がってくれるか? そこに香坂さんがいるから、彼女に渡してほしい」

「は、はい……。分かりました」

また香坂さんなの?

彼女は外部の講師でしょ?

それなのに、このデータで打ち合わせをするの?

分からないことだらけで、気が重いままコピー機へ向かった。
< 81 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop