鬼部長と偽装恋愛はじめました
やっぱりか……という思いと、半分驚きとで複雑な気分だ。

「お母さん、香奈美ちゃんを帰らせようと、かなり本気だったからね。祐平の家に引っ越しさせようとしたのも、ふたりにボロを出させたかったかららしいけど」

と言いながら、佐原さんは笑いを堪えている。

その姿を見て気恥ずかしく思うのは、佐原さんが母の行動を思い出して笑っていると確信できるからだ。

「本当に、申し訳ありません……」

「いや、そんなに謝らなくていいよ。気乗りしないお見合いをしても、お互いのためにならないし。ただ、香奈美ちゃん本人から、真実を知りたかったから」

佐原さんが言うことはもっともで、最初から誠実に断るべきだった。

結局は、母と佐原さんにウソをついただけだった……。

「佐原さん、本当にすみませんでした。そして、ありがとうございました」

申し訳ない気持ちでいっぱいで、それ以上の言葉が見つからない。

「でも、それがきっかけで祐平と付き合ってるんだろ? 香奈美ちゃんにとっても、オレにとっても良かったんだよ」
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