鬼部長と偽装恋愛はじめました
穏やかに言う佐原さんに、私は小さく首をかしげた。

私はともかく、佐原さんにはなにが良かったのだろう。

と思っていると、佐原さんが察したように言った。

「お芝居で恋人の振りをして、本当に好き合ったんなら、ふたりは最初からそれが運命だったんだよ。そして、オレはフラれる運命。それがハッキリしただけでも良かった」

「佐原さん……。本当に申し訳ありませんでした。私も今日、偶然でもお会いできて良かったです。このままだと、不誠実ばかり重ねるところでした」

本当に、今日のランチは、佐原さんに巡り会わせてもらえたようなものだった。

「香奈美ちゃん、あまり自分を責めないでほしい。だいたい、無理やりお見合いを持ってきたのは、オレだから」

「そんな……」

さすがに罪悪感でいっぱいだけど、佐原さんの優しさは素直に受け取ろう。

こうやって話していても、感じるのは祐平への想いだから。

私はいつの間にか、本当に彼を好きになっている。

「だけどさ香奈美ちゃん、祐平のどこを好きになったんだ? 結構、女性にドライなタイプだけど」
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