鬼部長と偽装恋愛はじめました
お酒と料理が運ばれてきて、佐原さんと乾杯をする。

ワインと魚のカルパッチョを口にしながら、私は佐原さんに小さく微笑んだ。

「私、最初は祐平のこと、好きじゃなかったんですよ。でも、接していて初めて気づいたんです。私のことを、よく見てくれていた人だって」

「それは、“上司として”見てくれてたんだろ? それでも好きになったってこと?」

「そうですね。たしかに、上司として私のことを見てくれてたと思います。でも、それで良かったんです。仕事で評価されることは、今の私には大きな意味があるので」

そうキッパリと言うと、佐原さんは満足げに微笑んだ。

「香奈美ちゃん、仕事にこだわってた感じだもんな。だから、この見合いも受け入れられなかったんだよな」

「はい……。でも祐平が、鬼部長であることには変わりはないんですけどね」

「ハハハ。そういうところ、あいつらしいのかもな。香奈美ちゃん、頑張れよ。そして時々は、お母さんのところに帰ってあげなよ」

佐原さんの言葉に、私は強く頷いた。

明日にでも、母には電話で謝ろう。

そして、祐平のことをきちんと話さないといけない。
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