新撰組綺談~悠月ナ草~



低い、低い声が空気を伝って、胸に突き刺さる。


その冷たすぎる声は、店員らしき男の動きを止めた。



ざっ…ざっ…

声の主が、千秋と男の方に歩いてくる。




(―――黒髪、短髪…綺麗な顔)


声の主は沖田ではなかったが

その声主は、武士なのか、帯刀をしていた。




千秋はまじまじと声主を見つめてしまう。


男らしく、端正に整ったほりの深い色香のある顔からは、

冷酷なオーラがひしひしとただよっている。





「コイツが、か、か、金を払わず出ていこうとしたんだ。ア、アンタには関係ねえ」


店員らしき男は、少しビビりながら声主に反論する。




男の主張を聞いた声主は、さも苛立たしげに、

一つ溜息(ためいき)を吐いた。



「この坊主が金を払っているところは俺がちゃんと見ていた。
それに、おめぇ、あの団子屋のものじゃねえだろ」


(え!?このひと、団子屋の店員じゃないの!?)


声主のはなった言葉に驚く千秋。




「ぐ…ぐぬぬ」


声主が助けようと千秋に手を伸ばしたが

店主でなかった男に千秋は腕を強引に引き寄せられた。



「きゃっ!!!!」




千秋は男に強制的に腕を後ろに組まされる。



(痛い……っ!!!!)






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