新撰組綺談~悠月ナ草~
「ふぁっ!」
そのあたたかな壁の正体は沖田さんだった。
思いきりぶつかったのにビクともしない、厚い壁。
(沖田さんは何か突然後ろに立って話す癖とかあるのだろうか)
屯所に最初に入った囲炉裏のある和室で暖まっておじいちゃんのことを思い出して涙していた時も、”何泣いているんですか?”などいって千秋の背後に突然いたことを思い出す。
「こんばんは」
沖田はふわりと微笑む。
「どうも。囲炉裏にあたたまりに来たんですか?」
「それ以外に何かあなたの部屋へ来たいと思う要素があると思いますか?」
「………っ。」
――――――――カチン。
なんというか、本当に嫌味な返し方をしてくるなあ。
素直にこの人は”はい”って言えないんだろうか。
口を開かなかったら意地悪でなく、ただのイケメンなのに。
「どうぞ温まってください。あたしは布団を引いて、もう寝ますので」
沖田の横を通り抜け、千秋は布団の入っている押し入れのふすまを開ける。
(沖田さんとも、別にツンケンしたいわけじゃないのになあ。)
沖田は、囲炉裏の近くに座り、あたたまり始めた。
そんな沖田を尻目に千秋はもくもくと布団をひく。
そして、ポニーテールにしていた髪の毛を下ろした。
すると、突然沖田が声をかけてきた。
「千秋ちゃんは髪を下ろすと、美人ですね」
「へ?」
突拍子もない冲田からの声かけに、間抜けな声を出してしまう。