新撰組綺談~悠月ナ草~
それだけ伝えると、沖田はくるりと前を向き直して、
巡察を再開した。
沖田の隣を歩いていると
声をかけられた。
「どうですか?初めての紫前町は」
紫前町というのはこの新撰組屯所があり、巡察をする、幕末の、今で言う都市みたいなものらしい。
空気はすみわたっており、空を見上げると現代とは違う、排気ガスで汚れていない
綺麗な空だった。
木々は生い茂り、
町行く人達は、とても楽しそう。
馬に乗った人が道端を歩いていたり
テレビで見る、侍の頭をしている人だっている。
スーツを着ている人なんていない。
みんな着物だ。
並んでいる木造の平屋からは、露店がたくさんでていた。
比較的、着物屋と団子屋が多いといったところかな。
「わあぁ…社会の授業の資料集で見た幕末の時代の町並みにそっくり
…っていや、そのものだった」
「新鮮ですか?」
沖田は、町の人々を観察しながら、隣で問いかけてくる。
やっぱり仕事中だから、違法な事をしていないか話しながらでも、目を光らせているんだろうなあ。
「新鮮ですね!
団子も食べてみたいですし、かんざしとかもさしてみたいです!」
千秋は嬉々としてそう言うと、隣の沖田から手が延びてきて
唇の前におかれた。
沖田の指で、千秋はしーっと人差し指を一本出しているポーズになる。
「あんたは今、男なんですから
かんざし欲しいとか言わないでください」
「そ、そっか…」
確かにかんざしは女性が着物を着たときに付ける、頭の飾りなだけあって、いま男装している千秋が欲しいといって良いものではない。
だが、それでも欲しいものは、欲しいのだ。
少し肩を落とした千秋を、沖田は見つめていた。