新撰組綺談~悠月ナ草~
「わああ、綺麗だな」
暗闇の中ひっそりと、だけどちゃんと自分を主張して赤く光っているその草に、千秋は見とれた。
数分、ながめていると、
おじいちゃんの言っていた”ある話”を思い出した。
千秋が小学生だった頃、おじいちゃんの家に泊まって、縁側でおじいちゃんと日なたぼっこしていた時の話だ。
”千秋、面白い話をしよう、”
おじちゃんは私に向かってほほえんだ。
”なになに!きかせて!”
幼かった頃の私は好奇心旺盛(こうきしんおうせい)で、目をキラキラ輝かせた。
”これは、ある不思議な女の子の話だよ。
この世のどこかにはね、辛い人を助けてくれる、運命の人と結ばれるためにある、赤い糸って呼ばれる縁があるんだ”
”あかいいと?”
“うん。
昔、その不思議な女の子には赤い糸で結ばれた恋人がいたんだ
だけどその恋人は、早くに亡くなってしまったんだ。
その女の子は、悲しくて悲しくて、仕方なかった。
けど、赤い糸は、どこまでも繋がっているって信じた。
それでね、生前、
恋人からもらった花のような草に、
毎日毎日女の子は、会いたい、会いたい、って気持ちを込めたんだ”
“ふーん”
“毎日、毎日その女の子は何も食べず、何も飲まず、赤い糸が繋がっている小指を草に当てて、会いたい、会いたい、って願ったんだ”
“でも、何も食べなくて飲まなくてそんなことしてちゃ、だめだよ”
千秋は縁側で
大きなコップで牛乳をひとくちのむ。
ごくごく、と飲んでいる千秋をおじいちゃんはくしゃっとなでてくれた。
“そうだよねぇ…だけどね、その女の子は恋人が愛しくて愛しくて仕方なかったみたいなんだ”
“そぉなのー?”
“だけど、やっぱり千秋の言うとおりで、
なにも食べなくて飲まなくて、二日もしない間にその女の子も死んじゃったんだ”
“うぅ…かわいそう”
千秋はなんだか泣きそうな顔をした。