新撰組綺談~悠月ナ草~
「千秋さん、今夜は千秋さんの歓迎会とかねて、ご飯を食べに行こう!!!」
千秋は突然の近藤の言葉に驚く。
「へ?」
「六時くらいでいいかな…やはりスタンダードに居酒屋か?いや…しかし千秋さんは女性だ…うーむうーむ…」
近藤は、ひとりごとをこぼしながら、嬉々としてプランを建てている。
近藤いわく、千秋が屯所に来たお祝いとして何かしようと思っていたらしい。
なんとも嬉しい申し出だ。
近藤を呆然と見ていると、千秋の部屋のふすまが開かれた。
「じゃあ、春宵(はるよい)はどうです?近藤さん」
「あ、齋藤さん」
齋藤が何やら小包を持ち、入ってきた。
きっと数分前に齋藤が率いる三番組が巡察から帰ってきたのだろう。
「一、おかえり!
春宵いいな!あそこは店の雰囲気も男っぽくむさくるしくはないし、何より酒にあう食い物が多いし、うまい!!!」
近藤は、齋藤のいう春宵に行ったことがあるのだろう、
行ったときの事を思い出して、いい気分になっている。
齋藤いわく、春宵というのは位置的に言うと、紫前町の最北部にある、今で言う“隠れた名店”なる料理屋らしい。
この屯所は紫前町の北寄りに位置しているため、歩いて30分ほどで付くらしい。
「千秋」
齋藤に名前をよばれる。
そして、齋藤が持っていた長細い小包を差し出された。
「なんですか、これ?」
千秋は小包を受けとるが、何がはいっているのかわからず少し困惑(こんわく)する。
手で持つ限り、何やら棒のような物がはいっている。
「開けてみろ」
齋藤に促されるまま小包を開けると、
その中には桜と梅の花が見事に調和し、とても美しいかんざしが入ってあった。