四百年の恋
***


 月姫と福山冬悟、二人の関係に変化が生じたのは。


 夏至の頃、冬悟に当主である冬雅より下された、思いも寄らぬ命令がきっかけだった。


 「え……。朝鮮出兵?」


 「我が福山家も、出陣することとなった」


 「どうして……。また愚かな戦を開始するというのですか。太閤殿下(たいこうでんか)、いや猿太閤は」


 「滅多なことを申すな」


 先年、太閤豊臣秀吉(とよとみ ひでよし)は突如として日本国内の全大名に、朝鮮出兵への動員令を発した。


 その時は福山家はちょうど地震に見舞われ、城および城下町の復旧作業に追われていて、出兵は奇跡的に免除されたのだった。


 だが今回は、回避できなかったらしい。


 当主・福山冬雅の名代として、冬悟が出陣することになったらしい。


 その際に太閤に謁見して、次期当主の地位への確約を頂戴するという噂。


 「小田原の北条氏が屈服したのと同時に、この国は全て太閤のものとなってしまった」


 その後東北の伊達氏が、南部氏が相次いで臣従。


 福山家は要塞が全て失われた状態となった。


 海を隔てた福山家も、ついに観念して恭順の姿勢を見せ、領土の保全を図るしかなくなったのだった。


 蝦夷地(えぞち;北海道)は遠方ゆえ、直接太閤が横槍を入れてくることはなく。


 支配権はそのまま許されたものの、いざという時は臣下として命令に従わざるを得ない。


 それがこのたびの、朝鮮出兵だった。
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